そっと、唇に指を当てる。
事件が報道されるのかされないのかはわからないが、マスコミは少年の押さえ込まれたストレスにのみ焦点を当てるだろう。
だが違うと、慎二は思う。
彼は弱かったのだ。ただ、言いたい事も言えない弱い少年だった。
認めて欲しいと、自分のモノが欲しいと思いながら口には出せず、要求するだけの価値を自分に見出せなかった。
自分に自信がなかっただけ。
自信に繋がるだけの努力をしてこなかった。努力していない自分を、少年自身も心の底では認めていたのだ。
だから要求できなかった。
要求もできないが、努力もできない。だから彼は里奈という、自分よりもさらにいくじのない、人形のように扱える少女が欲しかった。
彼女がそばにいれば、自分は強くなれる。そう見える。
それが錯覚であろうが幻影であろうが、そんなことはどうでもいい。彼にとってはそんなコト、どうでもいいのだ。
なぜ断言できるのか?
なぜならば、慎二にはそれがわかるから。
自分もまた弱いから。だから慎二には、優輝の行動も理解できる。
だが、理解できるのは行動だけ。
「里奈のことが、好きなんだ」
虚ろな瞳で呟く少年。
「好きなんだ」
本当に?
本当に彼は、好きだったのだろうか?
「あなただって私のコト、本当に好きだったのかしら?」
そう言って慎二を笑い飛ばす少女。
自分は愛華のコトが好きだったのだろうか?
今となっては全く自信がない。
あの頃のすべては虚無のようで、何もかもが定かだとは思えない。
だが、ただ一つ、これだけは自信がある。
自分は弱かった。そして今の自分も弱い。
落魄れてしまうほどに弱い。優輝という少年が狂っているのなら、自分もまた狂っているようなものだ。
大迫美鶴。
君は、強いのか? それとも弱いのか?
以前の覚せい剤の件といい、君はとても運がいい。
だがそれは、ただの運か? それとも周囲に恵まれているだけなのか?
慎二の携帯を、憤怒の形相で睨んだ聡。そして瑠駆真。他にも、美鶴の周りには人がいる。
だが、織笠鈴も一人ではなかった。彼女の傍には少年がいた。いたらしいが、彼女は死んだ。
「どんな困難に陥っても決してヘコタレない、自殺なんかしてしまわない、そういう女性を期待しているんだわ」
「あなたは、女性が怖いだけ。また織笠先輩みたいに、潰れてしまう人を見るのが怖いだけよ」
智論の言葉に、頭を振る。
俺はただ楽しみたいだけ。
そう、楽しみたいんだ。
再び携帯を握る。
女はバカだ。そして俺もバカだ。
だが世の中は騙されている。だから俺は、失望した。
世の中なんてくだらない。バカバカしくて、つまらない。
大迫美鶴は、淡い期待。そんな俺の、ささやかな楽しみ。
ささやか?
自問して、否定する。
いや、結構楽しんでいるな。
大迫美鶴
君は強いのか? それとも、弱いのか?
願わくば、強くあって欲しいと思う。そうして俺を、撥ね返してみろ。
暗闇の中で美鶴が睨む。
そうだ、もっと見透かしてみろ。
この俺をもっと、暴いてみろ。
階段をのぼる音がうるさい。
緩は眉根を歪め、ギリッと扉を睨みつけた。
足音は緩の部屋を通り越し、隣の部屋へと飛び込む。
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